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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)362号 判決 1965年2月11日

被控訴人 大和信用金庫

理由

一、被控訴人主張の三通の約束手形の振出人欄に、控訴人が、乾栄太郎の署名とならんで署名したこと、そのとき満期、支払地、支払場所、振出地が白地であつたことは当事者間に争いがない。右事実と、振出人欄中控訴人の住所の記載と控訴人の署名押印につき成立に争いがなく、そのほかの部分は(証拠)を総合すると、(1)控訴人は、昭和三五年二月一五日約束手形用紙に自己を振出人として署名し、そのほかの手形要件欄はすべて空白とした約束手形一通を被控訴人に交付し、被控訴人は、補充権にもとずき満期までに、金額として二九三、〇〇〇円、満期として同年四月一四日、支払地および振出地として奈良県天理市、支払場所として被控訴人天理支店、振出日として同年二月一五日、受取人として被控訴人と記載し、(2)控訴人は、同年二月二五日約束手形用紙に、自己を振出人として署名し、そのほかの手形要件欄はすべて空白とした約束手形一通を被控訴人に交付し、被控訴人は、補充権にもとずき満期までに、金額として一四六、三五〇円、振出日として同年二月二五日と記載し、そのほかの手形要件はすべて前記(1)の手形と同様に記載し、(3)控訴人は、同年四月八日約束手形用紙に、自己を振出人として署名し、そのほかの手形要件はすべて空白とした約束手形一通を被控訴人に交付し、被控訴人は補充権にもとずき満期までに、金額として二六五、一〇〇円、満期として同年五月九日、振出日として同年四月八日と記載し、そのほかの手形要件はすべて前記(1)の手形と同様に記載したこと、および被控訴人が現に右各手形の所持人であることを認めることができ、当審証人堀内忠一、同乾栄太郎の各証言中右認定に反する部分は信用できず、ほかに右認定を左右するにたる証拠はない。控訴人は、乾栄太郎が補充権を濫用して右白地の補充をしたと主張するけれども、その事実を認めるにたる証拠は何もない。

二、被控訴人は、前記各手形の各満期に支払場所に呈示したが、支払を拒絶されたと主張し、控訴人は右呈示があつたことを争うのでこの点につき考える。

右各手形の支払場所はいずれも所持人たる被控訴人天理支店であること前段で認定したとおりであり、弁論の全趣旨によると被控訴人は、右各手形の満期に右支店においてこれを所持していたところ、振出人たる控訴人のためにする資金がないため右各手形金支払の決済をとげなかつたことを認めることができるから、このような場合には、満期に手形所持人たる被控訴人による支払のための呈示があり、かつ支払の拒絶があつたと同一の結果をきたしたものと解するのが相当である。

なお、控訴人は、約束手形において振出人が数人ある場合、その全員に対して支払呈示をしなければならない旨主張し、本件各手形につき控訴人のほかに乾栄太郎が共同振出人となつていることは、当事者間に争いがない。ところで控訴人の右所論が、全員に対して支払呈示をしなければ、全員につき支払呈示の効力は生ぜず、たとえそのうちの一人に対し支払呈示をなしても、他の者に対する支払呈示がなされない場合には、支払呈示をうけた右の一人に対する関係においても完全な支払呈示の効力は生じないという趣旨であるならば、かような所論は、法律上の根拠のない独自の見解であつて、採用することはできない。

三、控訴人は、本件各手形については拒絶証書作成義務の免除がないところ、その作成がないから右各手形の支払義務がないと抗争するけれども、約束手形の所持人がその振出人に対し手形金の請求をする場合には、拒絶証書作成に関する手形法四四条、四六条等の準用のないことは、同法の規定上明らかであるから、控訴人の抗弁は主張自体理由がない。

四、そうすると、控訴人は、被控訴人に対し前記三通の約束手形金合計から被控訴人が乾栄太郎より被控訴人主張の前記一の(2)の手形につき内入弁済をうけた金七六、三四五円を控除した残額金六二八、一〇五円と、そのうち一の(1)の手形金と一の(2)の手形金残額との合計三六三、〇〇五円に対する支払呈示の翌日である昭和三五年四月一五日以降、ならびに一の(3)の手形金に対する支払呈示の翌日である同年五月一〇日以降各支払ずみまで商法所定の年六分の遅延損害金の支払義務があること明らかである。

五、そこで結局において右と同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

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